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保育園のインクルーシブ教育

これからの時代はさまざまな人種・障害を持つ人も一緒に生活する「共生」がスタンダードになっていくと予想されます。そのような未来の環境に幼少期から慣れるのを目的として導入が進められているのが「インクルーシブ教育」です。インクルーシブ教育の特徴やメリット・デメリットをまとめました。

共生社会に向けてのインクルーシブ教育

2013年、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が成立しました。これまでは、「障害のある人は障害のある人達のコミュニティに属し生活していくのが常識」とされていましたが、新たな法律の成立を機に「障害を持つ人と持たない人が同じコミュニティで共生していく社会」に向かっていく流れが生まれています。この流れは日本だけでなく諸外国でも進んでおり、まだまだ課題はあるものの、これから世界的にスタンダードとなっていくでしょう。そんな中で注目されているのが「インクルーシブ教育」です

未来の世界を作る子どもを育てる方法

インクルーシブ教育は幼少期から障害を持つ人と持たない人の区別をせずに、共生を促していく教育方法。共生を社会のスタンダードにするためには、子どものころから「共生は特別なことではない」という意識を持たせるのが重要です。インクルーシブ教育の導入によって、障害を持つ人と持たない人の間に壁が合ったこれまでの教育の在り方が見直されるものと期待されています

インクルーシブ教育の目的

インクルーシブ教育では、子どもたちの間に「共生」の感覚を根付かせるのが目的となります。

従来の教育システムは、子どもたちを障害の有無によって、あるいは年齢によって区別していました。この区別に基づいてクラスが分けられると、同じ年齢・同じ能力・同じ属性の子供たち同士での関わり合いだけが濃厚になっていきます。「自分とは違うところがある子」と触れ合う機会は少なく、共生の意識が育たないのが課題です。

差別意識を根付かせないインクルーシブ教育

インクルーシブ教育では、今後実現されていくだろう「障害や人種による区別を取り払った共生社会」を担う子供たちの育成を目指します。「自分と違う人がいることは当たり前」という感覚を幼少期から養い、自然に他者を受け入れられるよう育てていく<のが目的です。

海外では、年齢ではなく個々の学力にあわせた教育システムが整備されています。また、ひとつのクラスに在籍する子どもたちの人種もさまざま。日本よりも「共生社会」に近い環境で教育が行われていると言えます。日本では海外で実施されている教育の良い部分に学びつつ、インクルーシブ教育を現場に浸透させていくのを目指すことになるでしょう。

インクルーシブ教育の取り入れ方

保育園ではインクルーシブ教育を、、具体的にどうやって取り入れていくことができるのでしょうか。従来の教育との比較で考えていきます。

保育園におけるインクルーシブ教育

保育園でインクルーシブ教育を取り入れる際のポイントは、「ただ同じ場所に居るだけでは意味が薄い」という認識を、大人たちが自覚することです。同じ学級に所属していても、その中で差別が起きてしまったり、障害のある子どもたちが取り残されてしまったりするようではインクルーシブ教育とは呼べません

インクルーシブ教育の主な目的は、子どもたちに「共生」になじんでもらうこと。障害を持つ子どもと持たない子供たちを同じ学級に在籍させて一緒に過ごしてもらうことで、大人になっても障害の有無や人種などによる差別を等閑視しないように育てていきます。

大人たちの配慮がポイントになる

将来大人になった時に、障害の有無による差別をせず、差別を受けない社会を作ってもらうためには、子どもたちに「同じ場所にいるだけ」ではなく、「友達同士」の感覚を持たせる必要があります。障害を持つ子供が「通常学級に在籍したことでかえって差別を受ける」「疎外感を感じてしまう」といった状況にしない配慮が大切です。インクルーシブ教育で保育園側に求められるのは、障害の有無による差別の意識が育ってしまわないようにする配慮だと言えます。

障害に関係なくすべての「子ども」を一緒に育てる

インクルーシブ教育では、障害を持たない子どもの側だけではなく、「障害を持つ子どもたち」にも積極的にアプローチします。「障害をもつ子どもができる範囲で積極的に参加する」「障害の有無に左右されずにみんなで達成感を味わう」といった経験を子供たちにしてもらうのを重視します。子どもたちが障害の有無による差別を感じず、一緒に楽しく遊んだり学んだりできる仕組みや環境を、大人の側から主体的に作っていく感覚です。

ノーマライゼーション教育との違い

インクルーシブ教育はいわゆる「ノーマライゼーション教育」とは異なる考え方です。ノーマライゼーションは、障害がない子供たちの意識を変えて、障害を持つ人たちを違和感なく受け入れられるようにしようとする考え方。ノーマライゼーションはインクルーシブ教育と同じく「障害を持つ人が過ごしやすい社会を作る」のを目的としてはいるものの、教育する対象はあくまで「障害を持たない側」

ノーマライゼーションの考え方はとても大切です。幼少期からノーマライゼーションの感覚を養えるよう、保育園側が環境を整えていく必要があります。しかし、共生社会を目指すにはノーマライゼーションだけでは足りないのです。

インテグレーション教育との違い

インクルーシブ教育に近い考え方としてはインテグレーション教育があげられます。インテグレーション教育は同じ場所で、しかし障害がある子どもとない子どもを区別して扱う教育方針です。同じ空間に居はするものの、「障害を持つ子と持たない子が一緒に過ごしている」とは言い切れない部分があります。ノーマライゼーション教育と同様、「障害がない子ども達」の側にばかり目を向けた教育方針です。

インクルーシブ教育と比較すると、ノーマライゼーション教育・インテグレーション教育は、大人たちが最初から「障害の有無」で子どもたちを区別してしまっているのがわかります。大人たちの他意のない区別が、子どもたちに差別意識を植え付けてしまうリスクが懸念点です。

特定の子ども特別視されない、まさに「共生社会」と言える環境を大人たちが主体となって作っていくような教育が、保育園には求められます。

インクルーシブ教育のメリット

保育園におけるインクルーシブ教育は、障害を持つ子供、持たない子供、保育園それぞれにメリットがあります。

障害を持つ子どもにとってのメリット

障害を持つ子どもにとって、インクルーシブ教育は障害をもつ子どもだけが集まる学級では受けられなかった教育を受けられるメリットをもたらします。もちろん、子どもの抱える障害のタイプによってできるもの・できないものがある点には配慮が必要です。それでも、「これまでは受けられなかった教育を受けられる」のは、子どもの可能性を広げてくれるでしょう。

また、通常のクラスで過ごす時間は、障害をもつ子どもが「社会に出て共生する時にどうふるまったらいいか」といったことを学ぶ機会にもなります。

障害を持たない子どもにとってのメリット

障害をもたない子どもは、障害を持つ子供達と幼少期から一緒に過ごすインクルーシブ教育により、「さまざまな人がいるのが当たり前」という感覚を育てられます。できないことを助け合う、思いやりのある心が育ち、多様な人たち混在するグローバルな社会に出た時に、違和感を覚えずに済むのがメリットです。

保育園にとってのメリット

インクルーシブ教育の導入で多種多様な子どもの保育を行うことになると、在籍する保育士のスキルが向上。また、保育士・保育園・保護者が密に相談しながら教育について考えていく環境が築けるのもメリットです。特に、歴史の若い保育園はインクルーシブ教育により、保育園として求められるスキル・ノウハウを短期間に蓄積できる可能性があります。

インクルーシブ教育の課題やデメリット

障害を持つ子どもにとってのデメリット

子どもが抱える障害は、一人ひとりタイプや度合いが異なります。保育園内の活動でできること、できないことが出てきてしまい、子どもが劣等感を覚えてしまうかもしれないのがインクルーシブ教育のデメリットです。

障害を持たない子どもにとってのデメリット

自分と違いがある存在との共生には、受け入れるのに時間がかかるもの。障害を持たない子どもからすると、インクルーシブ教育はストレスになってしまうかもしれません。

保育園にとってのデメリット

インクルーシブ教育では障害がある子に対しては周りからサポートがなされます。しかし、障害の違いに応じてサポートの種類が変わり、サポートへの注力度合も変わるもの。これが保育士、保育園側への負担になるのが懸念点です。障害がある子どものサポートやケアが間に合わなかったり、そもそもできなかったりする可能性もあります。

インクルーシブ教育はこれからの世界の意識を変える教育

海外と比較すると、多様な属性を持つ人々が一緒に過ごす生活に日本人はあまり慣れていません。前例の少ないインクルーシブ教育の試みは、子どもたちにも保育園にも負担となる可能性があります。

しかし、共生社会を目指す世界の流れは「待ったなし」の状況です。これまでの教育方針を惰性で続けるのではなく、一刻も早く前例とノウハウを積み重ねる方向に進むのが得策です。今後、グローバルな世界で、「他者を受け入れられるのが当然」の世界を子供たちが作っていくために、インクルーシブ教育から目を背けることはできません。

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