保育園で行われる食育活動
保育の一環として行われる食育とは?
食育とは、「子どもの豊かな人間性を育て、生きる力を身につける」ために行う取り組みです。平成17年に制定された「食育基本法」にもこのように概要が記されています。
現代人は忙しく、朝食を食べない、ジャンクフードばかり食べている、栄養が偏っているなど、食生活の乱れが目立っています。子どもの食生活も、例外ではありません。
食育は「食を営む基礎力を培う」ことを目標として活動が行われています。乳幼児期の食事は子どもの体を作る基礎となるものです。幼い頃から偏食である子どもは、成長しても食生活の改善が難しくなります。保育園で食育を行うことで、保育園を卒業した後にも活きる正しい食生活や食事のマナーなどの基本が学べるのです。
食育の歴史
食育という言葉は、明治時代の医師である石塚左玄によって初めて用いられました。食育が誕生した当時の日本ではブームが起こり、その後1970年代にも再び食育が取り上げられています。日本は近代化が進むにつれて欧米の洋食スタイルを取り入れてきました。
しかし、これに伴い肥満や生活習慣病、栄養の偏りが表面に現れ始めます。過食や無理なダイエットを繰り返すのは大人だけでなく、10代にも見られるようになります。そこで国は政策として食育を行うように、平成17年に「食育基本法」を制定したのです。
食育が誕生した明治時代から、食育は乳幼児期から行うのが望ましいとされています。体の基礎は乳幼児期の食事から出来上がると考えられていたからです。現在では幼い子どもが生活する保育園や幼稚園でも積極的に食育が取り入れられています。
食育の目的
厚生労働省の「保育所における食育に関する指針」では食育の目的を以下の5つと定めています。
- 適切にお腹がすくリズムを持つ子ども
- 食べたいもの、好きなものが増える子ども
- 一緒に食べたい人がいる子ども
- 食事づくり、準備にかかわる子ども
- 食べものを話題にする子ども
上記の5項目は食育の観点から考案された保育目標です。保育園によって食育の細かな目標は異なりますが、5項目を基本に考えられています。
適切にお腹がすくリズムを持つ子ども
保育園に登園してきた子どもは、お遊戯やお散歩などを通して体を動かし、お腹を空かせます。お腹が「グー」と鳴ることでお昼ごはんを美味しく食べられる子どもを育てるのが目標です。
食べたいもの、好きなものが増える子ども
保育園のお昼ご飯には子どもたちの栄養を考えた様々なメニューが考案されます。5月の子どもの日や2月の節分などには行事食が提供されるので、食事を通して日本の文化を学べるのです。季節ごとの旬な食材を美味しく味わうことで、子どもの食に関する興味や関心を引き出し、食べたいものや好きなものを増やす効果も狙っています。
一緒に食べたい人がいる子ども
保育園の食育では保育士や園の友だちと一緒に食事をすることで、みんなで食べることの楽しさを学びます。美味しいものを食べたときの気持ちを保育士や友だちと共有したり、食事中にたくさんお話したりする体験が、食事の時間を子どもにとって楽しいものへと変えていくのです。食事を始める前には、みんなで手を合わせて「いただきます」を、食事を食べ終わったら再び手を合わせて「ごちそうさまでした」と習慣づけることで、食事のマナーも身につけられるでしょう。
食事づくり、準備にかかわる子ども
食育を行う保育園では、子どもたちが収穫した野菜や果物を園内で食べるプロジェクトが行われています。遠足の芋掘りで持ち帰った芋を保育園で蒸かしてみんなで食べたり、種から作物を育てて収穫したりします。普段食べている作物に関わることで、食べ物はどのようにしてできているのかなど、食への関心を高められるのが特徴です。
食べものを話題にする子ども
保育園での食事を作っている調理師の方や作物を育てた農家の方々と実際に触れ合う機会を設けることで、食への興味を持たせる取り組みも行われています。食に関わる人たちの話を聞いたり、触れたりすることで食を通してコミュニケーション能力を養います。例えば、子どもたちが田植えを手伝ったお米を食べる際には、田植えのときの経験が話題として持ち出されるでしょう。食育には、子どもが食べものに興味を持つきっかけを与える側面もあります。
保育園で食育を行う4つのメリット
1.集中力や学習能力が高める
正しい食生活が整うと、集中力や学習能力を高める効果が得られます。朝食を抜かずに1日3食を食べなさいといわれるのには理由があります。1日の始まりに食べる朝ご飯は、寝ている間に消費されたエネルギーを補うためのものです。
朝食を抜くと力がでずにパフォーマンスが落ちてしまうという言葉を聞いたことがあるでしょう。3食食べる食育を行うことで、子どもたちも集中力が低下せず、保育園でより多くの学びを得られるようになるのです。
2.免疫力を高める
栄養のバランスの良い食事を摂ることで、子どもの免疫力が高まります。ご飯の代わりにお菓子を食べたり、ジャンクフードばかり食べたりしていると、免疫力が低下して風邪をひきやすくなります。また毎日3食食べさせていても、食品添加物の多い食事になってしまっている場合もあるでしょう。
食品添加物を摂り続けると体に蓄積されてアトピーやアレルギーの原因になりかねません。食品に対する正しい知識のもとで行われる食育で、免疫力を上げて健康な体を作ることが大切です。
3.感情豊かな子に育つ
保育園で行われる食育では、生活をともにする仲間と食事を楽しみます。1人で食べるよりも、友だちや保育士と食べた方が楽しいことに気付き、子どもの感情はより豊かになるでしょう。食育を通して食物を作る人や料理を作る人に対する感謝の気持ちが芽生えることも大きなメリットです。食育は子どもの感情を育てる手助けを行います。
4.食文化を伝える
食育には地域や季節ごとの食文化を若い世代に伝える役割があります。保育園のある地域ごとに食育に取り入れられるメニューは様々です。地域に伝わる郷土料理や行事食の味付けを幼い頃から口にすることで、日本の伝統的な食文化を次の世代に伝えることができるでしょう。
年齢ごとの食育計画を立てる
0歳児
0歳児には哺乳期の子どもから離乳が完了した子どもまでがいるので、それぞれの子どもに対応した食育計画を立てる必要があります。
0歳児の子どもは自分で口を動かすことを少しづつ学んでいく段階。自分で食べものを食べるために必要な動作は、捕食・咀嚼・嚥下の3つです。まだ歯が生えていない状態では捕食を行うことで口の中に刺激を与えて機能を発達させています。子どもの成長段階に合わせて、口の動きを覚えられるような食べものを食べさせることが大切です。
1歳児
1歳児になると自分の手で食べものをつかんで食べられるようになります。最初は手づかみで食べさせて、指先を上手に使うための感覚を養わせましょう。子どもの成長度合いは一人ひとり異なりますが、スプーンを使って食事をができるような技術が少しずつ身についていきます。無理にスプーンを使って食べさせるのではなく、子どもの発達段階に合わせて見守ってください。
幼児期から正しい食生活を定着させることも食育の役割のひとつ。朝昼晩の3食とおやつを規則正しい時間に摂ることで、体の基礎が出来上がります。
2歳児
2歳児はスプーンやフォークなどの食器を使って食事できるようになる時期です。物事に興味や関心を持ち始める時期でもあるので、1歳児のようにはスムーズに食事が進まなくなります。散らかし食べや遊び食べ、食べものに対する好みも出てくるので好き嫌いが現れるでしょう。まわりの子どもが食事をしていても、食べたくないと駄々をこねる子も少なくありません。
子どもの状態に合わせて食器を使った食事の練習をしたり、食事のマナーを伝えたりしていくのがおすすめです。
3歳児
3歳児になると歯が生えそろい、少しずつ硬いものでも食べられるようになってきます。遊び食べや食べこぼしも収まり、自分の意志で食べるものを選べるようになる時期です。
早ければスプーンやフォークを卒業して、お箸で食べるトレーニングを開始する子も出てきます。「いただきます」や「ごちそうさま」などの食事のマナーが定着し、集団での食事が無理なくこなせるようになるでしょう。
4歳児
4歳児は自分で食事ができるようになり、保育士や友だち、家族との食事の楽しみ方を学び始める時期です。食事のマナーを守りながら、みんなで楽しく食べる感覚が養われます。
以前よりも食欲が増し、食べるスピードも早くなります。一方で集中力の低い子どもはおしゃべりに夢中になってしまい、みんなが食べ終わっていても1人だけ残っているという状態になりがち。ペースを守って食事をする練習をさせていく必要があります。
5歳児
5歳児は食事中に保育士の援助を必要としなくなる時期です。食事習慣が定着し、友だちとコミュニケーションをとりながら、食事ができるようになります。
この時期の食育ではよく噛んで食事をすること、「いただきます」や「ごちそうさま」で食材への感謝を覚えることが重要になるでしょう。